Field “Tasting” Notes

2025/06/14 17:19

4月に入り、日中はずいぶんと暖かくなってきた。

週に75kgずつ麦芽を製造しているものの、まだ500kg以上が手つかずで残っている。このままのペースで進めれば、すべて終わるのは5月半ば——あと最低でも7週間はかかる計算だ。

けれど、梅雨が近づけば、麦芽製造中にカビが発生するリスクが高まる。ギブアップだ。それまでに、なんとか終わらせなければならない。

今のやり方では追いつかない。一度にもっと大量に麦芽を作れる方法を考える必要があった。

そこで、いつも頼りにしている麦のエキスパート、高畑精麦の高畑社長に相談してみた。すると、佐賀で自家製の麦芽を使ってビールを造っている方がいるという情報を教えてくれた。

その名も「アームストロング醸造所」。

なんともマッチョな名前だ。

ちまちまと手作業で麦芽をつくっている自分たちの話なんて、聞いてもらえるんだろうか……。電話番号を手にしながら、“一発KO”されるイメージが一瞬頭をよぎったが、勇気を出して電話をかけてみた。

応対してくださったのは松本社長だった。こちらの事情を説明すると、後日、醸造長の方も交えてオンラインで話を聞いてくれることになった。

少し緊張しながらZoomをつなぐ。やがて画面に映ったのは、屈強な男性ふたり──まさに名前のイメージ通りの面々だった。

話を伺うと、「アームストロング醸造所」は、もともと千葉で化学プラント機器の製造を行っている「コトブキテクレックス」という会社が、日本有数の麦の産地・佐賀に立ち上げたブルワリーで、自ら醸造設備の一部を設計・製造しているという。

さらに驚いたのは、麦芽製造の設備まで自分たちで作っているという点だった。

日本では麦芽製造設備そのものが非常に少なく、大手ビールメーカーにしかないのが現状。ましてや、国産の麦芽製造機など、これまで耳にしたことすらなかった。

改めて私たちの事情を伝えると、醸造長の多田隈さんからは、
「4月に麦芽製造をしたことがないので、品質の保証は難しいかもしれません」
と、率直な意見が返ってきた。

それでも、ここで諦めるわけにはいかない。

「品質の保証は私の方で責任を持ちますので、私自身も佐賀に行って、一緒に造らせてください」

そう伝えると、その条件でOKの返事をもらうことができた。

カウントダウンは迫っている。でも、一歩、道が開けた。


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