Field “Tasting” Notes
2025/03/17 21:33
麦芽作りを始めるには、まず原料となる麦を確保しなければならない。
実は去年、農家さんと一緒に収穫した麦を、ウイスキーの仕込みに使うため保管している。
農家さんに連絡を取り、その保管場所を教えてもらう。
その名も、「カントリーエレベーター」。
長閑な麦畑のなかを、まっすぐに伸びる道が、丘の上へと続いている。
その先には、ぽつんと建つ小さな小屋。
きっとそこには、いつかウイスキーになることを夢見ながら、静かに眠る麦が待っている——
そんな風景を思い描きながら、『カントリーロード』を脳内で流しつつ、車を走らせた。
ところが、たどり着いた先にそびえ立っていたのは、要塞のような巨大な倉庫。
……あれ、イメージと違う。
そう、一般的にはあまり知られていないが、「カントリーエレベーター」とは、大型の乾燥機と貯蔵サイロが一体となった、穀物の乾燥・保管施設のことを指すのだ。
農家さんたちが丹精込めて育てた米や麦は、まずここに集められる。
乾燥されたのち、サイロに貯蔵され、精米やもみすりを経て出荷されるという仕組みだ。
ただし、品種ごとにひとまとめにされてしまうので、「誰が育てた」という情報は、アノニマスになってしまう。“ササニシキ”とか“コシヒカリ”といったブランド名は残っても、育てた人の名前は残らない。
それは少し寂しいけれど、今の流通の仕組みを考えれば、きっと仕方のないことなのだろう。
私たちの麦は、ちゃんと無事に保管されているだろうか。
恐る恐る、事務所の扉をそっと開けて「すみません」と声をかけると、奥から職員さんが出てきてくれた。
案内された倉庫の扉を開けてもらうと、中は広く、薄暗くて、ひんやりと寒い。
その一角に、別に分けて保管されていた私たちの麦の袋が、ちゃんと並んでいた。
——よかった。
預かっていただいている60袋のうち、今日は3袋だけ引き取って帰ることにした。